クラウドも電子小黒板も使える!
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『ルクレ☆オンライン』を開く施工内容を説明する小黒板の撮影は工事現場になじみ深い風景であり、逆に言えばそれだけ頻度の高い業務だ。国土交通省の調査によると、直轄工事で撮影する工事写真の平均枚数は約1万枚、完成検査で提出する写真は2,000枚に達する。この膨大な作業を効率化するため、小黒板を電子化する取り組みが広がっている。電子小黒板を搭載した工事写真専用タブレット「蔵衛門Pad」は、工事写真の撮影・管理時間の大幅な短縮を実現する。蔵衛門Padを全現場に導入した北野建設東京本社建築部に、現場の生産性向上における電子小黒板の効果を聞いた。
北野建設
東京本社建築部
次長
北野建設
東京建築事業本部
工務部次長
北野建設
東京本社建築部
――井関次長は東京本社建築部の現場で「蔵衛門Pad」全面導入を決定しました。導入の経緯をお聞かせ下さい。
井関 今から7年前は、各現場で異なる工事写真管理ソフトを使用していました。これを統一しようという動きの中で、長野本社管内で使用していた工事写真管理システム「蔵衛門御用達」が評価され、東京本社でも導入することになりました。
その後、東京本社建築部では現場管理のさらなる生産性向上を図るため、2015年暮れごろから工事黒板とデジタルカメラが一体化した「電子小黒板」導入の検討を始めました。蔵衛門Padが発売されてすぐのころです。他社製品も含めて当社の現場に適した電子小黒板を検討する中、ある現場から「『蔵衛門Pad』を使いたい」との要望があり、導入したところ使い勝手が非常に好評でした。もともと蔵衛門を使っていたこともあり、「蔵衛門御用達バージョン16」への更新と合わせて蔵衛門Padの導入を決め、ことし3月に建築部の現場に全面導入しました。
試験的に導入した現場では、主に配筋の撮影で効果が大きかったほか、内装など他の工程にも幅広く活用できました。非常に使いやすいということなので時間短縮になると思い、迷わず全現場に入れることを決め、蔵衛門Pad40台と蔵衛門御用達バージョン16を100ライセンス導入しました。実際に現場の負担軽減に効果が高いと評価は上々です。この結果を見て、長野本社も蔵衛門Padの導入を決め、北野建設の建築現場全体で展開しています。
―すべての建築現場で蔵衛門Padを導入した目的を教えてください
井関 背景には建設業界全体で入職者が減少し、IT(情報技術)を活用して生産性向上を図ろうとする流れがあります。当社も職員不足の課題があります。そのため現場の係員の負担を減らすためにできることは何かを考え、有効な技術はどんどん活用するスタンスを取っています。若手が担当する工事写真の撮影や管理は大きな負担となっているため、労働環境改善のツールとして蔵衛門Padを位置付けています。
山嵜 当社は経営方針に”少数精鋭”を掲げ、昔から生産性向上に取り組んできた土壌があります。建設業界でもIT化が進み、生産性向上のツールが増えてきました。当社の業務の電子化もこの数年間で急速に進んでいます。
社員が不足するとどうしても手薄になる部分も生じます。このため当社は現場の用途にあった製品を購入し、効率化を図ってきました。施工検査、写真撮影、WEB会議、図面の閲覧、文書作成などそれぞれのソフトウェアをパソコンやタブレットを使って積極的に活用しています。会社のスタンスとITの力が結びついた結果といえます。
――蔵衛門Padにはどのようなメリットを求めましたか
井関 当社は蔵衛門Padを全面展開するにあたり蔵衛門「プロフェッショナル」を採用しました。「スタンダード」との違いは現場内でLAN接続できることです。これまでできなかった現場内でのデータ共有を実現することを目指しました。パソコンが壊れるとデータも消えるリスクもあるため、本社のサーバーに一括して管理することも検討しています。
他社製品と比較する上で重視したのが、現場での”使い勝手”です。ひとくちに建築現場といっても、大規模現場、中規模現場、小規模現場などいろいろな特徴があり、条件はそれぞれ異なります。われわれが主にあつかう現場は中規模現場が中心のため、シンプルで操作性が高い蔵衛門Padが最もふさわしいと判断しました。
規模が大きくなると工事写真を外注することも考えられますが、当社はそこまで大きな現場は少ないので、現場内を1人の係員が撮影・管理するケースが多く、現場内をいったりきたりすることが大変な作業になります。そのため、操作性の高さは必須になります。そこを改善する意味で蔵衛門Padは当社の手掛ける工事にマッチした製品だと思います。
――導入する際に気をつけたことは
井関 タブレットを使用した撮影・管理へのスムーズな移行でした。デジタルカメラに慣れているため、工事黒板とカメラが一体化したタブレットを見ると「難しい」と思われる可能性があります。従来の方法でも業務を継続することは十分可能ですが、一度使ってもらえれば、その良さがわかってもらえるという確信もありました。
移行がスムーズだったのは、工事の初期段階から導入した現場です。蔵衛門御用達と蔵衛門Padが連動してデータを管理するため、工事の途中だと切り替えるのが大変です。基礎工事など初期段階から導入した現場ではうまく切り替えが進んでいます。
――実際に現場で蔵衛門Padの使ってみて感想はいかがですか
武重 わたしは東京都新宿区内でホテルの増築工事の現場に配属されています。係員として工事写真の撮影・管理、材料発注、仮設関係の業務を担当しています。現場内のすべての工事の撮影を、私が行っています。
これまでのデジタルカメラの撮影では、黒板や白板にチョークなどで寸法など必要事項を記載した上で施工箇所とともに撮影していました。その都度書き直す作業が大きな手間となっていました。
蔵衛門Padの場合、記入する工程が、現場ではなく事務所内でのデータ入力になります。その日の黒板に記入する作業を事務所で事前に行えるようになったため、現場での時間短縮につながっています。入力するのに手間はかかりますが、慣れればそれほど時間はかかりません。それまでは現場に複数の黒板や白板を持ち込む必要があったのですが、タブレット1台だけを持ち運ぶだけで済むため省力化になりました。
写真の管理でも、以前は撮影した黒板・白板の文字を見ながらパソコンに入力する作業を行っていたのですが、蔵衛門Padでは入力したデータをそのまま台帳の作成に使えるため、作業時間が3分の1に減りました。毎日、現場から戻って夕方から写真の整理を始めるのですが、2―3時間かかっていた作業が今では1時間程度で済んでいます。かなりの時間短縮になっていると実感します。
――現在はどのような現場で使用しているのですか
武重 建物は16階建てです。現在は躯体の鉄骨工事が終わり、外壁の取り付け作業が13階まで進んでいます。同時並行で内装工事が7階まで上がってきている状況です。建物の上部と下部の両方で工事が進んでいるため、黒板を持ち歩かなくてすむのはとてもありがたいことです。運搬用のエレベータが設置されるまでの間、多くの荷物を持って現場内を上下移動するのはかなりの重労働です。デジタルカメラでは作業員の方に撮影を手伝ってもらうことも多いですが、蔵衛門Padが1台あれば1人で撮影作業できるため自分の身ひとつで移動できます。黒板を取りに戻る作業もなくなりました。
井関 例えば各階で同じような内装が続く場合、テンプレートに1度必要事項を入力すれば、階数を変えるだけで使い回すことができます。黒板に書く場合はすべて消して書き直す必要があるため、電子化でこの作業が簡略化されました。
――操作性で特徴のある点を教えてください
武重 従来の黒板や白板は雨がふると書けなくなりますが、蔵衛門Padは電子小黒板を内蔵するため、天候に左右されることが少ないです。デジタルカメラを胸ポケットに入れて持ち運ぶと落としてしまう危険性もありました。蔵衛門Padは首から下げて持ち運ぶため落としづらい上に頑丈なカバーに守られているため、落としたとしてもしっかり防御してくれます。最初は現場にもっていくと壊れてしまうことはないかと心配しましたが、そういうこともありませんでした。
井関 工事写真の撮影では、カメラと黒板だけでなく、図面も現場に持ち込みます。係員は大きな図面を抱えて現場にいき、広げて内容を確認しながら黒板に必要事項を書き込みます。蔵衛門PadはPDFビューア機能が追加されたため、工事図面のPDFファイルを取り込み、現場で閲覧することができるようになりました。施工図面を画面上で拡大して見ることで、細かい部分までしっかりと確認できます。職人から質問されたとき図面をすぐ見ることができるため説明も容易です。
――作業が効率化されたことで、どのようなメリットが生まれましたか
武重 作業時間が短縮されたため、その時間を使って協力会社の方との打ち合わせや現場の気になる点の確認、指示を出すことに多くの時間をとれるようになりました。事務所に戻った後の作業では、多くの時間を割いていた写真管理から開放されるため、翌日の仕事の準備や、段取りを把握する時間に使うなど、業務の好循環につながっています。
井関 これだけ多くのメリットを持つにもかかわらず「蔵衛門Pad」は1台で10万円を切る価格です。工事写真用デジタルカメラの価格が1台で6―7万円であることを考えれば、コスト面での優位性も非常に高いと評価しています。
――若い世代は建設業のIT化をどのようにとらえていますか
武重 わたしは入社3年目で、ちょうど仕事の流れを自分なりに理解し、現場を動かせるようになってきたと感じています。もともと蔵衛門で写真を管理していたこともありタブレットにもすぐに慣れることができました。現場の立ち上げから利用できたのもいいタイミングでした。非常に使いやすく、業務も効率化されるため、仕事をする上でよりよい環境で作業ができるようになったと感じています。
若い世代はスマートフォンやパソコンの操作に慣れているため、ICTには対応しやすいと思います。蔵衛門Padに関しても取り組みやすさはスマートフォンなどと似た感覚です。他現場の若手に聞いても使いやすいと評価しています。
――北野建設としてのIT化の取り組み状況は
山嵜 北野建設では、ICT導入に向けた特別な生産性向上の取組方針を掲げているわけではありません。しかし、”少数精鋭”のスタンスから、積極的に導入しています。当社が所属する日本建設業連合会(日建連)は、担い手確保と生産性向上を両輪として建設業を再生するための「生産性向上推進要項」を3月に策定し、所属企業に配信しました。弊社も日建連のこの要項に準じる形で生産性向上に取り組んでいます。一気にすべて対応することは難しいため、優先順位をつけながら進めている状況です。
例えば、東京と長野の本社や現場との会議にはウェブシステムを採用しています。移動で生じる時間のロスをできるだけ減らすことが目的です。現場は午後5時、6時にならないと終わりません。午後6時から開く本社の会議に間に合わせるには、現場を空ける必要があります。現場の職員からすれば、その時間を使って工事を進めたいというのが本音でしょう。移動の時間が減れば、現場の負担が減ります。会議に参加できない場合も、サーバー上のデータから会議の内容を確認できます。
井関 建築部でもウェブ会議を積極的に活用しています。遠方から出席するには時間的な制約があります。すべての現場に導入しているため、ウェブ会議による出席が可能な体制ができています。
注目されるBIM(ビルディング・インフォメーション・ビルディング)についても、日建連の要項に沿い東京と長野の設計部で導入に向けた勉強会を始めています。蔵衛門Padの導入と同時期に工程管理ソフトも導入しました。
山嵜 IT化の課題は、メーカー各社が独自の仕様でソフト・ハードウェアを開発しているため、現場の利用者からすると作業内容ごとにソフトウェアが異なると非効率になる点です。システムを専門に扱う情報管理室では、必要とする機能がオールインワンで扱えるようにすることを今後の課題としています。ソフトメーカーには、この点のソリューションを求めたいと思います。
――こうした会社の取り組みを踏まえて蔵衛門Padに希望することは
武重 蔵衛門PadはアンドロイドのOSを使っているため、スマートフォンやタブレットと同様の機能を取り込むことができればより幅広く活用できると思います。技能者が新規入場する場合は必ず新規入場者教育のビデオを見てもらいます。蔵衛門Padにデータを入れておけば、どこでもすぐに見てもらうことができます。現場にDVDプレーヤーを置く必要もなくなります。
井関 ひとつには通信機能があります。WiFiを持っていれば通信できますが、なければできません。現場でわからないことが出てきた場合、写真を撮って所長に送ることができれば、リアルタイムで解決することができます。WiFiの端末を持ち運ぶこと自体が手間になるため、通信機能を内蔵すると便利になると考えます。そうすることで、さらなる現場の生産性の向上に貢献することが期待されます。
この記事は、2016年9月28日に発行された
日刊「建設通信新聞」より抜粋
制作:建設通信新聞社
協力:北野建設東京本社